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追記

――安保法制案強行採決後の所感――

 

 このたびは、私たちの呼びかけにご賛同いただき、誠にありがとうございました。非公表希望の方々を含めて、10月1日時点で291名のご賛同を頂きました。教職員有志の呼びかけ・賛同人の182名と合わせると373名の方々が賛同してくださったことになります。弊学国際基督教大学という小規模校でこれだけの賛同を集められたのも、第二次世界大戦終結直後、再び戦争の惨禍を繰り返してはならないとの切実な願いから、世界平和を願う日本とアメリカのキリスト教会および数多くの民間人の寄付によって「明日の大学」として設立された献学の精神が息づいているからだと思います。自画自賛ですが、すばらしい母校だと思います。

 今回の安全保障法案は、安倍晋三首相及びその官邸主導による与党の横暴で、様々なものを破壊しました。立憲主義、平和主義、民主主義、自由の原則のみならず、ルールそのものを破壊しました。とくに、9月17日(木)の参議院特別委員会の強行採決は、おおよそ採決と言えるものではありませんでした。さらに、前日に行われた地方公聴会の報告もされていないのですから、議事録にも載っておらず、地方公聴会無効の可能性があります。つまり、成立過程にも法的瑕疵があったと判断すべき状況でした。

 今回は力及ばず、与党および与党におもねる一部の野党の横暴を許してしまう結果となりました。しかし、独裁とはいきなりやって来るものではなく、その兆候は必ずあります。そして、それはなかなか世間では気づかれないものです。第一次安倍政権で教育基本法が強行採決により改定されました。それと前後するかのように、政治的中立を理由に平和や護憲を訴える集会や展示会などの催しを公共の場から排除しようとする動き、権力を監視する役割を担うはずのメディアが権力に忖度をする動き、在日コリアンやアイヌに対するヘイトスピーチ、特定秘密保護法の成立、もっといえば、昭和の時代から続く世の中に対する冷笑主義や、どっちもどっちという相対主義も安倍政権成立につながっているのでしょう。最近では、参議院特別委員会の中央公聴会に公述人として出席した大学生に対する殺害予告が起こるも、それを当然視する意見が散見されます。他には、政権批判をするトイレの落書きで警察が捜査し、それが報道される世の中です。このような行政の対応は、戦中の特別高等警察を思い起こさせます。つまり、私たちの反応が遅かったのです。

 しかし、この法案をめぐる動きによって、護憲の精神や、リベラル志向が国民に広く根付いていることがわかりました。さらに、この法案をめぐって、安倍政権の暴走に対抗するための参加と民意のデモクラシーの基盤があり、それを手にする状況が出来つつあると思います。強行採決の後に「戦いはこれからです」や、「まだまだ声を挙げ続けます」というのは、これまでは冷静に見れば内輪向けの負け惜しみだったのは否めないと思います。実際、特定秘密保護法の時にはそのような空気を国会前のデモで感じていました。ところが、その特定秘密保護法に反対する活動をしていたのがSASPL(Students Against Secret Protection Law)であり、それがSEALDs(Students Emergency Action for Liberal Democracy-s)につながっています。さらに、SASPLの一部のメンバーが結成していたAPI(Action for Political Issues)は、ICUの学生が首相官邸前の反原発のデモに行ってみたことがきっかけとなっています。APIの結成は2013年6月ですので、2年経ってここまで来たのだと評価できることだと思います。「2015年安保」ともいわれるこの動きは、かつての運動のように組織による動員でも、党派性を帯びたようなものではなく、参加者個人の意思による動きが主体になっていると思っています。先に触れた地方公聴会では、多くの人々が、参加した委員を通さないために体を張ってシットインを行いました。こうした動きは日本各地に広まっており、あらゆる世代に拡大しています。

 恒久平和論を唱えたイマニュエル・カントは、『判断力批判』や『世界市民的見地における普遍史の理念』、『実用的見地における人間学』の中で、戦争のようなすでに起こっている害悪を乗り越えて、少しでも最高善である恒久平和に近づけていくことが、人間に課された義務であるとしました。害悪ですら人間が次の次元に進むためのきっかけになると言っています。

 憲法を無視する法案を強引に成立させ、憲法の無効化に向けて突き進む安倍政権は戦後の憲政史上最悪の政権と言っても過言ではないでしょう。しかし、その戦後史上最悪の政権が、皮肉にも立憲主義や民主主義、日本国憲法の平和主義の重要性を喚起するきっかけとなったと思われます。そして、これらの理念が「未完」の状態であることも示してくれました。

 私たちは希望を失うことなく、今後とも真剣に取り組んで行きたいと思います。

 

2015年10月2日

サイト管理人

 

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